【不妊治療体験談】仕事との両立で「悩み」「ストレス」を抱えないためのマイルール【前編】
仕事をしながら不妊治療をしていると、誰もがぶつかるのが両立の難しさ。
不妊治療の検査や経験がある夫婦が5.5組に1組と身近になった今日でも、その難しさの実態は語られることが少なく、周囲の理解や共感を得るのは難しいのが現状です。*1
今回、仕事をしながら不妊治療を行ったことのある経験者の方に、リアルな声をお聞きしました。
■お話をお伺いした方
お名前:I.Tさん
当時のご年齢:35歳
職業:食品系ECサイトのコンテンツディレクター
勤務体系:フルタイ
35歳からのスタート
私が不妊治療をはじめたのは、結婚して1年後の35歳になった頃でした。
それから約2年間、WEBディレクターとして正社員で仕事をしながら不妊治療をしていました。
もちろん私も、不妊治療と仕事の両立に難しさや負担、ストレスを感じ、迷ったり悩んだりしたひとりです。
ごく個人的な体験談ではありますが、もし少しでも悩んでいる方のお役に立てるならと思い、不妊治療の悩みやストレスに負けないための、私なりの解決方法をお話しできればと思います。
検査だけで、こんなに通院が必要なの?
「妊活」ということばをよく聞くようになった2011年。
結婚して1年、思うように妊娠できないまま35歳になり、少し焦りはじめたことがきっかけではじめて受診をしました。
幼少時から健康に自信があった私は、自分になにか原因があるとはまるで思っていませんでした
きっとタイミングがあっていないだけ、診てもらえばできるだろう、そんな軽い気持ちで自宅近くのAクリニックを予約をしました。
あまり下調べもしていなかったため、不妊治療スタート時に必要な検査の多さに驚きました。
初診時できるのは血液検査のみ。数日後に子宮卵管造影、翌週にフーナーテスト、そのまた翌週に血液検査…、看護師の方の説明に慌てました。
「そんなに何度も通院しなくちゃいけないの?会社になんて言おう…」
まずそれがひとつめのハードルでした。
診療時間の関係で通院後の出社が調整しやすかったのですが、どうやっても遅刻になります。
はじめのころは体調不良とウソの理由で休んでいましたが、出社すると同僚たちが心配してくれ、うしろめたさを感じました。
また、初診の時点でこの不妊治療が長期戦になると予測できていたため、上長に相談することを決意。
上長はふたりの子どもがいる女性でしたが、やはり不妊治療とは言いたくない。
「婦人科系の病気で通院が必要で、月に何度か遅刻や早退をさせてもらいたい」と濁して伝えました。
なんの病気かと詳しく尋ねられたらどうしようかと不安でしたが、上長は体調を心配してくれ、なにか困ったら遠慮なく言ってねと、拍子抜けなくらいに寄り添ってくれました。
卵巣年齢にショック…でも、いつもどおりの仕事が気を紛らせてくれた
さきほど初診時に不妊治療が長期戦になると予測していたと書きましたが、そのわけは…?
初診の血液検査で測った卵巣年齢「AMH値」が、私は「0.1未満(測定不可能)」だったからです。「これは50代半ばの数値で、すでに閉経に向かっている。すぐに体外受精をはじめたほうがよい」と医師から告げられました。
ショックでした。
「なにか改善する方法があるのでは?」
しかし調べても調べても、改善方法はないという情報しか見つかりません。
「夫に申し訳ない、両親に申し訳ない…」
帰宅後しばらく呆然としていました。
仕事に行く気にはなれませんでしたが、はずせない業務があり出社。
作り笑顔でいつものように仕事をしているうちに、徐々に気持ちが落ち着いてくるのを感じました。こんなときはひとりでいないほうがよいのかも、普段どおりに仕事をし、同僚たちとたわいない会話をしたほうが前向きになれるのかも、と思ったことを憶えています。
帰宅後、夫が「ダメ元でいいからチャレンジしてみよう、その結果ふたりのままならそれも楽しいよ」そう言ってくれたことで、体外受精をはじめると決めたのでした。
迷惑をかけている負い目と、採卵できないジレンマ
自宅近くのAクリニックでは遅刻早退必須だったため、定時にあがれば間に合う、職場からほど近いBクリニックに転院しました。
転院当初は、定時にあがるなら問題ないだろうと考えていましたが、私のいたチームは残業が多く、週に何度も私だけ定時であがることに、すぐ引け目を感じはじめました。
通院時にチームメンバーが私の仕事をフォローしてくれていることが何度かあり、「迷惑をかけている、説明しなければ」という気持ちが大きくなりました。
そして、上長には不妊治療をはじめたことを伝え、チームメンバーには、婦人科に通院していて定時であがる日が増えると説明をしました。
Bクリニックは仕事あがりで駆けこむ人が多く、とても混雑していました。
2時間待ちは当たり前。
診察が終わるまで3時間以上かかり、週に何度も通院する時期は負担を感じました。
しかし、排卵誘発による副作用はあまり強くなかったため、仕事に支障が出ることはほぼありませんでした。
もし副作用が強かったら、不妊治療と仕事の両立は、かなりハードルがあがっていたかと思います。
私の場合は、卵巣年齢の高さからまず卵胞が育たない。
育ちきらないうちに排卵してしまう。
結局、通えど通えど採卵に至らず、採卵までこぎつけたのは約1年間で1回だけでした。
採卵日が決まったのは2日前。
経過から採卵できそうだったため、仕事は前倒しで進めておき、チームメンバーにお願いする業務をできるだけ減らしておき、有給を取りました。
私の仕事はそれぞれの範囲が明確で、ある程度は自分で調整できたのよかったですが、もし誰かに変わってもらう必要がある仕事だったら、かなり気苦労が多かったと思います。
採卵は、麻酔をせずに注射のような器具を腟から卵巣を刺して行いました。
しかし、位置が悪くうまく採卵できないようで、何度も何度も刺されます。
痛みに鈍感で、痛いと評判の卵管造影もまったく平気だった私ですが、このときばかりはあまりの痛さに冷や汗でびっしょり、気づかぬうちに涙が…。
結局、採卵できないまま終わりました。
ここまで採卵できないなら、違うアプローチを試したほうがよいのでは?と、2度目の転院を決めました。
<後編につづく>(2022年6月上旬公開予定)
<参照>
*1: 厚生労働省「不妊治療と仕事の両立サポートハンドブック」